生徒会長様の、モテる法則
要冬真は、二人に一つ礼をすると掴んだままの私の手を引いて歩き出した。
私、どんな顔してるんだろう。
こんな事落ち込むなんて。
少し前は、そんなの一切気にならなかったのに。
足が少しだけ、重かった。
「あ、生徒会長さん」
突然後ろから投げかけられた軽い言葉は、少しだけ怒気を含んでいるような気がした。
高めで甘い声は聞き慣れた葵の声で、表向き穏やかだがどこか刺々しい。
私は目だけで振り返り、笑ったままの彼に視線を投げた。
「“うちの”って言ったけど、鈴は僕のだから」
眉をピクリとも動かさない葵は、まるで私が所有物であることを当然かのようにサラリと言ってのけた。
一寸の迷いもない風のような声は、不愉快なくらい鮮明に頭で繰り返される。
「言葉の文だとは思うけどとりあえず」
冗談でもなんでもない表情。
しかしどこか無表情で玩具を取られた小さな子供のような怒り。
燻るような、怒りのオーラが見え隠れしている。
「そうですか。それは失礼しました」
しかしそんな無表情を柔らかく包むように、要冬真は笑ってみせた。
返す踵も穏やかに、ヤツは私を引いて控え室の扉を開け中に入っていく。
カツカツと慣れた様子でブーツを鳴らす足取りは流石と言った所。
「全く、朝から騒ぐな。客がビックリしてんだろ」
「ごめん」
私が素直なのが珍しいからか一瞬眉を顰めたが、すぐ真顔に戻り制帽を浅く被り直した。
ホント、何もかもスラッとやりこなすな。こいつ。
「相手しようとするから面白がられるんだろ。流せ。取り乱すな、あいつがくえないヤツだって言うのは何となく分かったから」
「う、うん」
「――…それに、あいつのモンじゃねー」
一瞬不機嫌なオーラが要冬真を包み込んで、ボソリと何か呟いた。
よく聞こえないと私は首を傾げたがヤツは誤魔化すようにまたフロアへ戻っていく。
「しっかり働けよ」
あまりにも優しい足音に、小さく胸が高鳴った。