生徒会長様の、モテる法則
ホール入り口の受付には、制服姿の見慣れた顔が立っていた。
私達より前に入っていく人達に色々説明をしている。
そしてその客を見送ったままの笑顔で振り返り、
「やぁ、来てくれたんだ。嬉しいよ」
白々しい!!!
テメェが脅したんじゃねーかよ!
とりあえず、ネガ返してもらって早く帰ろう。
彼の目の前まで行ってゆっくり手を差し出すと、葵は不思議そうに首を傾げて考える素振りを見せた。
しばらく難しい顔をした後、嬉しそうに私の手を握りしめたもんだから、イラッとしてそのまま空いていた手でも彼の手首を掴み背を向け思い切り投げ飛ばす。
背負い投げ。
背中を体重が移動して影が宙を舞ったのわかった。
――…決まった…!
未だかつて葵相手に成功した試しがない技が初めて…!
「…あれ?」
背中から飛ばした筈のヤツの体は綺麗に床に落ちる所か、上手く体をひねって足から着地し、何事もなかったかのように立ち上がった。
「この中はね、迷路になってるから、地図を見ながら回って。基本的にメインは街並みだから楽しんでね、一応、これから簡易鬼ごっこがあるよ」
――…こいつぅぅぅ!
私と彩賀さんの背中を両手でグイグイと押し切り、入り口の前まで誘導する。
扉の前に立つと生ぬるい風が頬を撫でた。
廊下の明るさの反動で、ここから見るホール内は暗くてよく見えないが、ぼんやりと染みるように光る灯りが点々と続いている。
「あ、怖い?夜がモチーフだけど大丈夫、人もいっぱいいるし街灯も沢山あるから安心してよ」
「こ、怖くないわよ!失礼な!」
腹の立つ助言を聞き流して、彩賀さんの手を握りそのホールに足を踏み入れた。
「鈴」
透き通るように響いた葵の声、たった二文字なのになんて楽しそうな色だろうか。
ゆっくり振り返ると、遠くで手を振る彼がさらに一言。
「頑張って逃げ切れたら、返してあげるよ」
「は?」
「行ってらっしゃーい」
ホールの扉が閉じられて、痛いくらいの外の光が消え去った。