生徒会長様の、モテる法則
「桐蒲くんて、お強いですわね」
段々薄暗さに慣れてきた目が、少し悲しげな彩賀さんを捕らえる。
歩き出して数分、それまで黙っていた彼女が遠慮がちに口を開いた。
「まぁ、私喧嘩でアイツには勝ったことないよ」
「まぁ!鈴夏さんよりお強いんですの?それは素晴らしい…、じゃないですわスミマセン」
「いやいいよ、彩賀さんは強い人好きなんだもんね。でもマトモに話してないのによくわかったね」
あからさま落ち込む彼女の背中を軽く叩いてやれば、申し訳なさそうにこちらに顔を向けた。
「無言の威圧感が、お父様に少し似ていましたの。そのオーラに押されて何も言えませんでした」
文句の一つでも言ってやろうと思ったんですが、と暗くなる彩賀さんはいつもと違って何だか可愛かった。
「アイツには関わらない方がいいよ。変に口出すと何するか分からないし、私の傍に居てくれるだけで心強いから」
「鈴夏さん…!私を生涯アナタに捧げますわ!」
「いや、それは遠慮するよ」
それは、困る。
宝塚のように彼方を眺めて両手を広げた彩賀さんを一刀両断すると、彼女は折れる様子もなく笑顔で私の手を握りしめた。
まぁ、彩賀さんが楽しそうだから別にいいや。
とりあえず気になるのは先程の別れ際の葵の言葉。
“逃げ切れたら、ネガ返してあげるよ”
逃げるって、何。
不審すぎるあの笑顔。
いやしかし何から?
暗闇と言う恐怖から?
でもここは暗闇と呼べるほど暗くはないし、彩賀さんだっている。
「しかしよく出来てますわね。19世紀ロンドン、と言った所でしょうか」
確かに、このホールは驚くほどよく出来ていた。
チャイナ服と後ろの街並みはかなり不釣り合いで、レンガ造りの家がびっしり続いており、よく昔の海外映画に出て来るような雰囲気。
街灯も黒をベースに作られたランタンで、その近くには馬車が置いてあったりもする。
「何だかシャーロック・ホームズの世界ですわね」