生徒会長様の、モテる法則
6-8 涙
「…、疲れた…」
屋根の上を走る私を人々はこう呼んだ。
“サルだ”
“忍者だ”
と。
せめてキャッツアイと呼んでくれ。
そして。
私は今、暗闇にいる。
上から差す光はうっすらと円を描いており、時折聞こえる通行人の声に耳を傾けながらすっと息を潜めていた。
正直、怖い。
暗所恐怖症の私が自らこの空間に身を置いているのは、その内臓を逆さにするほどの恐怖に、ネガへの執念が勝っているからであって。
ゴミ箱へ綺麗に収納された体は、綺麗に体育座りをしている。
そろそろ、暗闇への恐怖がMAXに達してきたので、次のゴミ箱に移動しようと、フタの隙間から目だけで外界を覗いた所だ。
左の方からカツカツとゆったりした足音が聞こえ、目だけでそちらを確認すると青い制服が目に入る。
この空間での“ロンドン警察”というやつ。
その足音の人物は、向かいの壁際を歩いており、私のいるゴミ箱とは反対側にいる。
段々左脇に構えていた私の眼球が、足音を追って丁度真ん中――真正面にやってきた瞬間、何を思ったのかピタリと足を止めた。
くるりと、こちらに顔を向けて私、というよりゴミ箱を一点に凝視している。
――…つうかあれ、葵じゃん!
あの細い体、パーマ、オーラ。どれを取ってもヤツそのものであると本能が言っている。
何を思ったのか彼は、私の潜むゴミ箱の方に方向転換しゆっくりとこちらに向かってきた。
いや!
バレてない!
いくらなんでもバレない!
大丈夫、葵はきっとゴミ箱の後ろに続く道に入ろうとしているだけ!
近づく足音、フタの隙間からでも表情が読み取れる距離まで来て、私は絶望した。
――ゴミ箱じゃなくて、私を見てる!
「ぎゃあああ!」
思わず立ち上がった為フタに頭を思い切りぶつけた。
この距離なら逃げ切れるかも!しれない!
逃げる!全力で!全身全霊満身創痍!とりあえず寿命を削ってでも生命の炎に限られた薪をくべてでも走る!
「あはは、捕まえちゃうぞ☆」
コエェェェ!