生徒会長様の、モテる法則
「わぁくんな!まじで!」
「流石だよ鈴。これも僕がドーベルマンを放ったお陰だね」
「自分を正当化すんな!」
私が逃げ込んだ細い道は、灯りが殆どなく足元が見えるように小さな蛍光灯が並んでいるだけだった。
葵は昔から何をやらせても人並みにこなせる人物で、中学になってからは気働き優しさの押し売りにより“綺麗で頭も良くて優しい番長”と陰で女子から囁かれていたほど。
足の速さだって、私が死ぬ気で勝ち取った“ドーベルマンより強靭なヒラメ筋”を凌いでしまう。
ゆっくりと近付く距離に青ざめながらも、私は行き止まりの壁にうっすら見えるドアノブへ手を伸ばした。
「そこ、従業員専用だよ」
ノブを勢いよく引いたのに、びくともしない。
まさかレプリカかと、壁に入った切り込みをマジマジと観察したが確かに奥から光が漏れているし、冷たい風がすり抜けてくる。
葵の冷めた忠告は、私のすぐ上から聞こえ恐る恐る顔を上げると、にこやかに見下ろす彼の肩から伸びる長い手がしっかりと扉を押さえつけていた。
「音もなく近付くな怖い!大体企画者が鬼捕まえてどうすんのよ!」
そのままの体制で出来るだけ眉間にシワを寄せて睨み付けると、葵は緩いパーマのかかった毛先を揺らして一言。
「別に、捕まえる気はないよ?」
「は?」
「鈴が逃げるから。なんて言うのかなぁ、逃げられると追いかけたくなるじゃない」
私は即座に握ったままだったドアノブから手を離して体を回転させる勢いで足を振り上げる。
しかし、葵の首に入るはずのハイキックは完全に見切られていた為掠りもせずに空気を切った。
彼はと言うと、私の間合いから瞬時に抜け出し少し離れた所からニコニコと笑顔を向けている。
「そんなんじゃあ、いつまで経っても僕には勝てないよ」
むかつく!
私が勝てるなんて1ミクロンも思ってないくせに!
「うるさい!勝手に鬼にしやがってからに、こっちは大変だわ!」
一定の距離感になり、どこか安心した私は視線の先の葵を指差した。