生徒会長様の、モテる法則
“好かれたいなんて図々しいこと、思ってない”
私の言葉は私の体の真ん中を突き抜け、ぽっかりとそこに穴を開けた。
目の奥が、熱い。
今まで散々言い聞かせた言葉なのに、燃えるように苦しかった。
――…嫌われたくない
あの時、頭の中を支配した感情は私の体の真ん中に存在していた。
少し偉そうだけど、真面目な所とか、優しい所とか、好きな人に向けられる笑顔とか暖かい手のひらだとか、全部に嫌われたくなくて、いつのまにか体の中を巣くっていた正体不明のそれにトドメを刺すように。
「よくわかってるじゃない」
葵の言葉が降ってくる。
歪んだ視界の中心にいた彼は、一歩足を踏み出した。
生まれた芽を根から摘み取るような優しい声。
それでも針を突き刺したような残酷な言葉は、ゆっくりと溢れ出し伝う何かを誘うようだった。
「だから、鈴は僕と」
暗闇に映える白い指先が、私の前に現れ蝶のように曲線を描いた。
それが頬に止まる、ほんの一瞬。
背後、それも遠くから聞こえる悲鳴や物音が一瞬で耳元に近付き、乱暴な騒音、気付けば私の視界から葵も、蝶のような指も、彼の背中から続いていたロンドンの街並みさえも消えていた。
鼻をくすぐる甘い香り。
思わず息苦しくなり胸元を押さえる。
「泣くなバカ」
その瞬間、体中の血液が一斉に回り始めたのを感じた。
頬に触れた生暖かい手が酷く私を安心させる。
「生徒会長さん、従業員専用の出入り口から来るのは反則。鬼を捕まえたことにはならないよ」
葵がバカにしたように鼻を鳴らした。
手で被われた目では何も見えないが、大体表情は予想が付く。
「俺は生憎、“鬼”を捕まえにきたんじゃねーからな。うちの書記に用があってきたんだ」
「ふーん、とりあえず鈴から手離してくんない?」
要冬真の言葉に上から重ねるような挑発じみた発言。
怒っているのは間違いない、そして実はちょっと手を離してくれないと鼻が塞がって苦しい。
「嫌だと、言ったら?」