生徒会長様の、モテる法則


「ふーん、長旅だな」



窓の外を駆け抜ける風景を目で追いながら、要冬真はそれきり話さなくなった。

真新しい違和感が逆に心地よい。
まさか自分が要冬真と二人でどこかに行くなんて考えられなかったから尚更。


こいつは、私の事を知ってどうする気だろうか。
真意の見えない横顔を見上げると、長い睫毛が少し重そうに揺れている。
時々欠伸をかみ殺して目元を擦る仕草は、普段の気丈な態度からは考えられない。




――…変なの、一緒にいるの嫌じゃないなんて




自分がヤツに見惚れていることに気付いて慌てて視線を窓に移すと、そこには私達が、仲良く座っている景色がやんわりと映っていた。


自分の事なのに、自分の事が全然解らないや。






「…、?」




突然、肩に感じた控え目な重力に私は思わず声を上げた。
何となく予想がつくが、もう一度。そう思いヤツを見上げ直す。





――…寝るの早っ!




心地よい振動というのは、わからなくもない。
確かに電車が動く時特有の揺れは眠気を誘うわけで、私も当然眠いのだ。

辛うじて私の方が座高が低いため肩に要冬真の頭が落ちてくることはないが、少しだけ傾いた体が私に寄りかかるようにしてゆっくり呼吸している。


簾のように流れる黒い髪は、まるでシルクのようだった。

きめ細かい肌、筋の通った鼻、血色のよい唇、こんなに近くで、しかも無防備な姿を見たのは初めてだ。



――…疲れてるのかな




何となく顔が見たくて下から覗きこんだ所で、耳朶を撫でていくような優しい寝息に心臓がビクリと跳ね上がりすかさず前に向き直る。


窓に映る私とヤツ。



内側から叩き付けられるような早鐘に息苦しくなり無理やり息を吐き出した。

起こさないように、ゆっくりと。

チラリと横目でヤツが寝ている事を確認して、またため息を付き誤魔化すように目を閉じた。



もう、寝てしまえ!




どうせ終点なんだ。
変な気を起こす前に意識を飛ばしてしまえ!

つうか変な気って…、私は変態か!



寝ろ寝ろ私!!!


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