生徒会長様の、モテる法則


要冬真が、ご丁寧に箸を両手で持ち手を合わせたのを見て、思わず私も後に続いた。



この醤油の匂いも、焼いた餃子の香ばしい匂いも、産まれてからずっと脳に染み込んだ思い出の一つだ。


チラリと横目で彼を見ると、何とも上品にラーメンを啜っている。
こんな綺麗にラーメン食べたヤツ初めて見た。
育ちの良さが染み出てるとはこういうことだ。


それに年上には普段からは考えられない笑顔で接する、紳士的な態度。

使い慣れしているだろう敬語。


金持ちの坊ちゃまは、きっと年上と話をする機会が多いんだろう。
それくらい、不自然に自然な身のこなしだった。



「なんだよ」



私の視線に気付いたのか、要冬真は罰の悪そうな表情でこちらに顔をあげた。


「いや、…ラーメンとか食べんの初めて?」


「…、こういう脂がのったモノは初めてだ」


「そっか、無理して食べなくていいよ」


その言葉に、遠くで親父が何か言っていたが無視。
きっと、高級食材しか口にしてこなかったであろう彼に、一杯670円のラーメンが口に合うかと言ったら答えはノー。




「美味いから、全部食べるが」



要冬真は、餃子に醤油を付けながら首を傾げてそう言った。
なんでそんな事を言うんだ?という純粋な疑問の表情。


「そっか」



緩む口元を隠さずに私がそう返すと、彼は数回瞬きをしてから無言になりラーメンに箸を付ける。

嬉しい。



例え、嘘だとしても。
今私と同じように肩を並べてラーメンを食べている事が。
“美味しい”と言ってくれた事が。



「おい鈴。今日うちに泊まってくんだろ?坊ちゃんと」



「ブハッ!」


モノを口に含んだ私を試すかのように親父がヒョッコリ上から現れ、とんでもない事を口にしたので麺が喉に詰まり、咳が出て汁が飛び散った。


「いや、帰るし!」



「そんなこと言ったってよ、坊ちゃん塩まみれだし、風呂貸したらバスは無くなるぞ」



いや、確かに…それはそうなんだが…!


「お言葉に甘えさせていただきます」


おい!お前も断れ!




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