生徒会長様の、モテる法則
「呑むか?」
「いえ、未成年ですから」
「そうか」
小さく笑った夏樹さんは、背の低い透明なグラスにトクトクと酒を注いだ。
日本酒だろうか。
普段専ら目にするのはワインなので、この独特の匂いには慣れていない。
「生徒会長なんだって?」
グラスに入った透明な液体をチビりと呑んだ彼は、ゆっくり顔を上げる。
「はい」
俺が風呂に入っている間にでも聞いたのだろう。
夏樹さんは彼女に似て、少し強いくらいの目力があると思う。
大きくはないが力強い視線。
彼女はくっきりとした二重だが、夏樹さんは切れ長の一重、しかし目の奥に見える意志の強さは流石親子、と言った所。
探るような彼の視線に、少したじろいだ。
「鈴とは、生徒会長と書記。本当に、それだけの関係か?」
突然核心を突くような質問。
投げられた視線と口調は、正に一人娘の父親だった。
そりゃあ、突然帰省した娘が見知らぬ男を連れてきたら驚かない父親はいない。
自身の中に微かにくすぶる、小さな感情の正体を俺は知っている。
知っている、というかもう、認めざるを得ない。
自分に嘘を付くのは嫌いだ。
誰かを守りたいと思うのも知りたいと思うのも、持て余す熱も。
俺は彼女に充分、振り回されている。
ただそれが癪で、表には絶対に出さないが。
「はい、そんな疑われるような関係では。本当に友人です」
今は。
そう付け加える自信は、残念ながらない。
「そっか、そりゃ安心だ!」
ニヤリと笑った夏樹さんは、グラスの酒を一気に飲み干した。
「鈴がな、男を連れてきたの初めてでよ。びっくりしちまったよ正直な」
初めて。
その言葉に、少しだけ優越感を覚えた。
小さな部屋の中で、浮き出たその感情の音が聞こえ誤魔化すように慌てて俺は適当な言葉を口にする。
「今日働いていた方は、彼女と仲良くはないんですか?」
とっさに出た質問。
口から出た瞬間“しまった”と思った。
これでは、彼女を気にしている事が一目瞭然だ。