生徒会長様の、モテる法則
「あいつは相手にされてねーな、まぁ、鈴はそれ以前の問題だ」
トクトク、と酒が瓶の口に当たってグラスに流れていく。
夏樹さんは瓶を逆さにして搾り出すようにそれを振って見せた。
雫がバラバラに、コップの中に落ちていく。
「うちは、見ての通り母親がいねぇ。その辺の事情は知ってるか?」
「いいえ」
俺は静かに夏樹さんの言葉を待った。
ここで話を濁されれば、聞いてはいけない話だと判断出来る。
逆に彼が話せば、俺には聞く権利があると言うことだ。
「昔から体が弱くてな。母子どちからを諦める覚悟の出産になるって言われてた」
夏樹さんは、白髪一本ない刈り上げられた短い髪を数回掻き俺から視線を逸らした。
17の娘を持つ割に若々しい体付きだ。
タンクトップから覗く二の腕は見事に鍛え上げられていて、無駄一つないし、焼けた肌も健康的、力強い肩。
この親にして、あの娘。
まさにそんな感じだ。
「よくある、子供を産む代わりに母が死ぬってパターンだ。鈴はな、“自分のせい”だって、責め続けてる」
夏樹さんは、コップの中でユラユラ揺れる液体に景色を映しこむようにそれを覗き込んだ。
「本人には、言わなかった。言うつもりもなかった。母親の命日が自分の誕生日だなんて、知る必要ないと思ってた。でもちっさい村だろ?だから、母親が死んだ事を知らない人間は居なかったんだ。鈴を産んで死んだのも、有名な話だった」
耳障りなテレビの雑音が、やたら遠くに感じる。
それくらい全身で、彼の話を聞いていた。
「どっかのガキな、それを知って鈴にふっかけたんだ。“お前のせいで母親が死んだ。父親が可哀相”ってな。普段から泣き虫だった鈴は、酷い泣き顔で帰ってきて仕事中の俺にこう言った」
『わたしが、おかあさんをころしたの?』
「“違う、そうじゃない”そんな言葉しか浮かんで来なかった。父親なのに、そんな風に思わせるなんて親失格だろ?」
気が動転してたんだ、夏樹さんさんは伏せ目がちにそう付け加えた。