生徒会長様の、モテる法則
「“愛するヒトを失う”恐怖をあいつは間接的に知った」
『おとうさん、ごめんなさい、ごめんなさい』
「人一倍感受性の強い子だったから。気付いたんだ、不意に思い出した彼女の温もりに、俺がほんの一瞬だけ涙を流してしまったことに。愛する人を失う恐怖も、愛する人を残して死んでいく恐怖も、あいつは全部、想像した。あまりにも優しい子だったから。勿論、俺は鈴夏を産んだ事は後悔していないし、鈴実が命をかけてまで守ったあの子を、恨んだりしてない。大切な子だと思ってる」
奥の台所で、冷蔵庫が小さく唸る。
一瞬静まり返った空間に、夏樹さんの小さな溜め息が響いた。
「雀が死んでも、痩せた野良猫を見ても泣くような子だったんだ。昔はな。でもそれ以来泣かなくなった。俺は鈴は成長したんだと思ってたんだ」
遠くで犬の鳴き声が聞こえた。
「何か動物を飼わないかって提案した事があってな」
『だっていつか死んじゃうでしょ?悲しいから、犬とか飼いたくないよ。辛いだけだもん』
「強くなったんじゃなかった、初めから諦めてたんだ。何かを“愛でる”と言う感情を。母親が居ない分俺が愛情を二倍も三倍も与えてやらなきゃいけなかったんだ。愛の強さって、ヤツを、教えてやらなきゃいけなかった。それなのに、出来なかった」
蓋をして、見えないようにして。
何重にも鍵がかかった重たい扉。
「鈴は、頑なに一番深い場所で閉じこもってる。自分を否定しながら。坊ちゃん、君になら…扉を開けられるかもしれない」
夏樹さんが、顔を上げ向かいに座る俺を見上げた。
娘を思う純粋な父親の目、それは酒のせいか無力な己を責めるせいか、少し濡れているようにも見える。
「鈴があんなに女の顔して笑うの、初めて見たんだよ。あの子を好きになってくれとは言わない。キッカケでいいんだ、鈴に、愛の強さを知るキッカケを」
――…与えてやってくれ