生徒会長様の、モテる法則


「違う、誰がどう思ってようとそれは私の問題で…」


何を返したらいいのか分からずしどろもどろになると、確かめるようにゆっくりと彼が言葉を落とす。


「お前は、自分を傷付るフリして、自分を守ってるだけだ」



枝先に止まっていた小鳥が、葉を揺らして飛び立った。
でも、聞こえるはずの音が聞こえない。
耳が、聞くことを拒否しているような、そんな感じ。



「自分が傷つきたくないからって、逃げるんじゃねぇ。人のせいにして、尤もらしい理由をつけて、ただ自分が辛い思いしたくないだけじゃねぇか」



要冬真の声は、残酷なのに酷く優しかった。
ジリジリと照りつける太陽に、突きつけられた言葉に眩暈がする。


心を見透かされている気がして、息苦しい。


向けられる視線が痛い。





「命をかけた愛の強さ、それがお前の全てだろうが。お前の体は、紛れもなく両親の愛情で出来てる。それを否定するな、逃げるな。“自分が母親を殺した”なんて、下らない事言うんじゃねーよ」



傷付くのが怖かったのは確かだ。
誰も好きにならなければいい、いや、誰も好きになってはいけない。
そのブレーキになっていたのが、母親の存在だった。




――…元々人を好きになる資格なんてない



そう思い込めば、誰も好きにならないと思って。





誰かに愛されれば、いつか傷付く日が来る。
誰かを愛すれば、いつか傷付く日が来る。




「…怖いの」




じっとり熱を帯びる体と、水浸しで冷たい体の奥。



「いつか居なくなるなら、それで辛い思いをするなら、“好き”は知らなくていいって。母さんを盾にして、使命みたいに“好きになっちゃいけない”って思ってれば、傷つかずに済むって」


そんな自分の弱さに気付いていながら、そう思い込む事しか術がなかった。



弱い。




そうやって、気付けば、男にだって負けない女になっていた。


外見だけは、誰にも負けない、中身が空っぽの人間に。





「お前の母親は強いだろ、それはお前を愛してたからだ」


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