生徒会長様の、モテる法則
第八章 現れた鉄仮面執事
私の夏休み最後の日は、提出期限9月1日の物理問題集に追われながら終了した。
物理は滅びればいい。
私の夏休み最後の日を奇妙奇天烈な数式にしやがって!
「眠い…」
残暑残る新学期。
完全に徹夜略して完徹だった私は重い瞼を擦りながら学校へ向かっていた。
15分歩いただけで汗ばむ体。
衣替えの時期はまだまだ先になりそうだ。
夏休み中一度も来なかった学校の風景は懐かしく、校門から続く前庭はまだ夏らしさを残している。
噴水の水が「涼しそう」と思うのだから、そうとうだ。
さっさと教室に入ろうと昇降口にさしかかった所で、ザワザワと騒ぎ出した背後の様子が気になり何となく振り返った。
人が歩いている。
いや、普通の新学期で人は歩いているものだ、山ほど。
しかしその人は、学校という景色に浮き上がるような形で不自然に存在していた。
真っ黒な人影。
遠すぎて表情は全く見えないが、躊躇いなく長い足が前へ前へとこちらに向かっている。
夏だと言うのに黒いスーツに身を包み、遠目からでもかなり等身があることとスタイルが抜群によい事がわかった。
「…、誰やねんあれ」
横から突然現れた右京は、彼を見上げた私に「おはよーさん」と適当な挨拶をしてから、また謎の生命体・ブラックを食い入るように見つめていた。
「さぁ」
長い足は、間違いなく昇降口へ向かっている。
誰かの保護者か、と私が勝手に納得しているとそちらを見たまま右京はボソリと呟いた。
「あれ、どっかの執事やんなぁ」
「え、なんで解るの?」
「雰囲気」
「誰かのお父さんじゃない?」
「アホ、高校生の親父があんな若いわけあるかい」
見てみぃ、と顎で指された先を目で追った。
いつの間にか近付いた距離のお陰で顔の造りがよく見える。
年は、20代後半だろうか。
しかしそれは顔付きからではなく、醸し出す大人のオーラから感じるもので、釣り目だが大きい瞳に通った鼻筋、白い肌からは年齢を推定出来ないほど綺麗だ。
大人っぽく若々しい。