生徒会長様の、モテる法則
何だか流されるままに高そうな車に乗車すると、丁寧に扉が閉まり反対側のドアからブラックが乗り込んできた。
要家ベンツばりの柔らかい座席に戸惑いながらバックミラーを見ると、優しそうなおじいさんがハンドルを握っている。
よく考えてみれば、こんな単純に見ず知らずの人の車に乗っていいものなのだろうか。
いや、ダメだろ。
「あの、やっぱり降ろし…、ちょいまち!家反対方向なんだけど!」
ゆっくりと走り出した車から見える景色は帰宅する道のりとは、明らかに方向が違う。
窓ガラスに張り付く私を、無表情だが囀るような、それでいて艶のある声が見据えた。
「間違えていないですよ、この道が最短距離です」
ある意味威圧的な無表情。
この人は人間なのか、ちょっと疑ってしまうほど口元以外の場所が動く気配がない。
「え、そうなんですか」
越してきて半年。
正直学校周囲の地理を理解してはいないので、そう言われてしまうと反論しようもない。
やがて赤信号に捕まり、窓を流れていた景色がゆっくりと止まった。
外を見ると、信号待ちしていたうちの学生や主婦が歩き出している。
「本日、鈴夏様の授業を拝見させていただきましたが」
突然ブラックが話し出したので驚いてそちらを見上げると、彼の長い睫毛が目に入った。
少しツリ目気味の目元は、確かに誰かに似ている気がする。
「授業も聞かず、関係のないことをしているようですね」
「え、あ、いや」
そうです。
と言う勇気はない。
声色はそうでもないのだが、如何せん表情が皆無で氷のようなので、物凄く怒っているように見えるのだ。
――…お前は私の母さんか!
ツッコミたい!でも無理!
「あのような環境に置かれれば少しは周囲に感化されてお嬢様らしくなるかと思いましたが…」
氷のような視線が私の体を刺した。
上から下まで、全体を睨み付けた後ブラックは溜め息をつく。
「足を広げて座っている時点で、それは期待出来なさそうですね」