生徒会長様の、モテる法則

8-3 兄弟


「…今日朝から一回もマトモに授業受けてないじゃん!」


ハルが机を叩きながら、暇であることをアピールしている。

六時間目、英語。

先生のヒアリングを右から左に受け流し、私は机に頬を付けた。



もう、訳わからん。



よく解らない屋敷に連れ込まれ、食事を取るからと呼ばれた広間で箸の使い方がなっていないと叱られ、胡座をかいていたら正座しろと叱られ、刺し箸したらマナーがなってないと叱られた。



どういうこと?



家に帰せと反論すれば、『夏樹様の許可は取ってあります』とコンマ一秒で返された。



なんの許可?
刺し箸禁止令の許可?



散々な夕食を終え、檜の高級風呂に入り、提供された浴衣の着方を間違えて怒られた。


『鈴夏様、それでは死に装束です』



と何食わぬ顔で、浴衣を着付け直す。



――…お前!私の体を見る気か!




と思いきや、本人はその辺に興味も示していなかった。

くそっ、それはそれでなんか悔しいな。



そして10時には謎の個室に閉じ込められ一言。



『いい夢を』





おい!この部屋なに!
だだっ広い座敷に布団が敷かれており、辺りを見回すと、小さな棚には私の家にあるはずの写真立て、タンスを開いてみれば見覚えのある洋服。


私のだ…!



よくよく目を凝らして見てみると、自分の家にあったものが全てここにある。




――…あれ、もしかして




私が引っ越しだったの?
じゃあ住所変更も私の住所変更だったの?


『ちょっと!意味分からんブラーック!』


『はい』


『うぉ!』


障子を引いて廊下に飛び出し彼を呼ぶと、呼ばれるのを待っていたかのように障子脇に立ったブラックが返事をした。

驚いて上げた声が廊下に響いて消えていく。

まさかそんな所に居るとは思っていなくて、スーツ姿のブラックを見上げた。


せめて着物にしてくれ。




『鈴夏様』


ブラックの薄茶の瞳の中に、私が見えた。

無表情な色だ。




『眠れないのなら本を読んで差し上げましょう』



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