生徒会長様の、モテる法則
「なにつったってんだ行くぞ春、オラウータン」
「はーい」
「オラ…ッ!」
一瞬で和やかな雰囲気を払拭した要冬真の声は、背後から聞こえてきたと思えば私達を追い越して、こちらを振り返っていた。
ハルの後に付け加えられたオラウータンは、確実に私に向けられている。
「おいこらオラウータンってなんだ」
「サルやゴリラより良いだろ、語呂が」
「よくねーよ!わざわざちょいマニアックなあだ名つけんな。確実嫌がらせだろ」
「よく分かったな」
殺す…!!!
隣を歩くハルが「大丈夫おれはちゃんとリンって呼ぶから!」とか元気良くフォローを入れているが、君は微妙に名前違うからね。
それに、ナンバーワンよりオンリーワンな時代は終わったから。
確かにあの歌は良い歌だけども。
下手したら君以外の全生徒が“オラウータン”って呼びかねないから、そんなオンリーワンいらない。
そんな葛藤を続けていると、いつの間にか生徒会室の前に着いていて要冬真が扉を開けたため流れでハル、私の順番で入室していく。
あれ、溶け込んでる?
先程のハルとの会話で奴の真面目な一面が垣間見れたというだけで、断固拒否の精神が揺らいでいるというのか。
まてまて、相手は人権の通用しない奴だぞ。
人をオラウータンとかいう奴だぞ。
私が扉の閉まる音が背中に聞こえて反射的に顔をあげると、要冬真が社長椅子のようなフカフカな椅子に座って机の上に置かれた書類を、無駄のない動きで持ち上げる。
「これより、仁東鈴夏を正式な生徒会役員として任命する」
その自己陶酔しきった仕草に、私はこの部屋に入ったことを後悔した。