生徒会長様の、モテる法則
「そういうんじゃなくてさ!こう、サッカーで日本が勝ったとか、五円玉拾ったとか、次の日が休みだ!とか、そういうの!なんか欲しいモンとかさ、無いの?」
「…、特には」
「えー!もう埒あかないじゃん、何か欲してよ、笑うとか怒るとかさ、“私の自慢の髪に触るなサル野郎”とか」
私が少し声を荒げて見ても、ブラックは首を傾げるばかり。
その間もどんどん髪は乾いていく。
「鈴夏様」
「ん?」
「私の話を少し、してもいいですか?」
私が聞きたいと思っていた事が分かったのか、ブラックは突然そう言った。
ドライヤーを下へ向けて、毛先を乾かしながら彼の声に耳を傾ける。
「家の教育方針は、“愛する者の為に笑え”でした。すれば、“主人”を支える最高の執事になれる、それが父の口癖で、私は生まれた時からその教えの元、指導を受けていたのです」
愛する者の為、かぁ。
誰かが笑っていると嬉しい、そうやって誰かに尽くせ、と言うことだろうか。
「そうしていたら、いつしかあまり笑わなくなっていました。意識していたわけではないんですよ。ただそう教えられて素直に信じていたら、それが当然になってしまっただけです」
ドライヤーを止めて、確認するように私が長い髪に手を滑らせると、すかさず礼の言葉が返ってきた。
「母はそれを見て、酷く傷付いたのでしょう。陽介が生まれた時、彼には執事の教育させないと言いました」
まぁ、本人が10歳になる頃、血のせいか興味を持ってしまったので、陽介は執事になりましたが。
ブラックはそう付け加える。
「だから、笑えないとかじゃないんです。私は“月”ですから。主人――…鈴夏様が光って初めて光るのですよ」
ブラックは、ゆっくり振り返り私を見上げた。
少しだけ、表情が優しい気がして胸が熱くなる。
ロボットなんかじゃない、彼の個性なんだと気付かされた瞬間だったから。
「そっか」
――…でも
「私だって、月になりたいもん。ブラックは嫌かもだけど、それは許してよ」
そう言うと、ブラックは小さく「努力します」と呟いた。