生徒会長様の、モテる法則
ジワリと滲む汗は、私も彼も同じだった。
照りつける太陽に、秋を帯びた涼しい風。
落ち着かせるように、私は細く長く溜め息をつく。
「しかし旦那様は、こう続けました」
『鈴実を満足に幸せに出来なかった君が、本当に娘を幸せに出来るのか?君が要求を呑めば、お前の娘は幸せになれる。呑まないと言うのなら、こちらも取るべき手段というものがあるよ』
「旦那様の一言で、中小企業の未来は容易く変わります。小さなラーメン屋の未来なんて、蟻を潰すより容易いのです」
『…そう脅して、俺から鈴夏を奪う気か』
『これは提案だよ夏樹君、君だって路頭に迷い娘を悲しませたくなんてないはずだ』
「残酷な選択だったと思います。娘を手放すか、娘を路頭に迷わせるか」
私は溢れそうになる涙を無理やり拭って、踵を返した。
それに驚いたようだったブラックだったが、大人しく後に続いて歩き出す。
未だ暖簾のかかっていない入り口に手を掛け、一気に横へ引いた。
「親父」
座ったまま、肘をついて顔を落としたままの親父に声を掛ける。
ゆっくり近付いて、目を見開いたままこちらを見上げた間抜け面を思い切り殴り飛ばした。
油断していたからか、思い切り頬に入った拳に親父は座ったままよろめく。
「親父てめぇ、かっこつけてんじゃねーぞ」
冗談でも、私に本当の事を知られたくなくても、“嫌い”の言葉に肯定なんか、してほしくなかった。
「ラーメン屋が無くなろうがホームレスになろうが、私には関係ねーんだよ!私は、あんたの娘だ!金もなんも、一緒に居られれば何にもいらない、升条の家なんて行かない!」
「バカ言ってんじゃねぇ!」
親父は椅子から立ち上がり、仕返しと言わんばかりに私の頬を思い切り叩いた。
しかし私の体が吹き飛ばないほどに、優しく。
「世の中そんな綺麗事は言ってられないんだよ!いいか、愛には何も要らないわけじゃない、生きていく術と誰かを幸せにする程度の社会的地位も金も決断も、必要になる時がくる」
シンクに水の落ちる音が響いた。