生徒会長様の、モテる法則
「離れていても、俺はお前をずっと娘だと思っているし、幸せにしてやりたいとも思ってる」
目の届かない所に居ても、生きていてくれれば。
せめて自分らしさは失わず、不自由なく暮らしてくれるなら。
「俺はお前が、自分らしさを失わずしっかり二本の足で立って、歩いていって欲しいと思ってる」
頬が痛い、胸が痛い、殴った拳が一番痛い。
親父は、ゆっくり絞り出すように地面に言葉を落とした。
「いいか、お前には、幸せになる権利がある。だからこそ、今、お前は俺と決別する。もし用意された未来に不満を感じて、耐えきれなくなったら、帰ってこい、そうしたら、一緒にホームレスになってやる」
親父の目は、相変わらず強い意志を持った光を帯びている。
真っ直ぐ見つめるその視線は、私を優しく貫いた。
「お前は俺の娘だし、ここはお前の家だ。勝手に決めたことは、申し訳ないと思ってる。でも、わかってほしい」
――…俺がお前を間違いなく、愛してるという事を
静かになった店内に、時間を刻む音だけが聞こえた。
「ブラック」
「はい」
「もう帰るよ」
私は店の扉を引いて、商店街を抜け、待っていたシルバーの乗る車に乗り込んだ。
後を追うように乗り込んだブラックが、何か言いたげにこちらを見ている。
「わかってるよ、私の為の選択だったんでしょ」
エンジン音と、車内に響く送風の音。
涼しい風が、親父に殴られた頬を撫でていく。
一応年頃の乙女だぞ、思い切り殴りやがって。
「升条の社長に会える?」
「残念ながら、升条の名にに相応しくなってからと、旦那様が。お会いする気もないかと」
「私がお嬢様にならないとダメってわけね」
やってやろうじゃないの。
少し首を傾げるブラックを見上げて、拳を握った。
「お嬢様になって社長に会って言ってやるわ!私は“仁東鈴夏だ!”ってね。手伝ってくれる?」
私が笑うと、ブラックはしっかりとした声で返事をした。
「勿論でございます、鈴夏様」