生徒会長様の、モテる法則
第九章 見知った婚約者
「着物キツイ!」
「文句を言っている場合ですか」
「んー…」
嫁姑の如く繰り広げられた1ヶ月は、いつのまにか過ぎていった。
気付けば10月中旬、空の青さに赤く染まった葉が揺れている。
升条家別邸の庭の紅葉が池に降りて、鯉がパクリとつつくのを見ながら、私は車の準備が出来るのを待っていた。
今日は、漸く升条家に挨拶に行く日。
社長に会ったら言ってやりたい事が沢山ある。
「鈴夏様、準備が出来ました」
「はーい」
立ち上がり深月さんの隣に並ぶと、無表情で、私の着物の襟を軽く直した。
「わかってますね」
「はい、あくまでお嬢様らしく、お淑やかに、人の意見は最後まで聞いてから、手は絶対に出さない」
私が彼を見上げると、満足げに頷いた。
最近は、深月さんの無表情にも色々パターンがあることに気がついたのだ。
「うふふ」
「どうかしましたか?」
「んーなんでもない」
車のドアを深月さんが引いたのでなるべく上品に乗り込んだ。
背筋は伸ばしたまま、足を揃えて、自分でもお嬢様らしくなったと思う。
「丁重に結婚の話も断って、親父と暮らすように交渉して、完全に縁を切る」
「寂しいですね」
「え?」
「私は升条家の人間ですから」
「いや!深月さんは別だよ!一緒に買い物とか行こう」
「そうですね」
第九章
見知った婚約者