生徒会長様の、モテる法則
「鈴夏さんに会う前から、名前も顔も知ってましたよ」
「え?だって私の名前知らなかったじゃん、知らないふりしてたの?」
『えーっと、お名前は…』
『仁東!仁東鈴夏!』
「あれはアナタが勝手に名乗っただけでしょう。ただ“升条鈴夏”の名前で転校してくると思ったんで正確に言えば“知らなかった”です。だから私の事を知らないのかなと思って、聞いたじゃないですか」
『私の名前知ってます?』
「そちらの家から知らされていない事を私が話してはいけないですから、黙ってました」
「いやいや言ってよ!私が昨日どれだけ驚いたか!」
「だって、アナタにとって初対面の私が言った所で絶対信じないでしょう」
「ぐ…」
それは、ごもっとも。
よく分かってらっしゃる。
「で」
「で?」
「私を此処に呼んだ理由はなんですか?」
「えーっと、私と結婚するのやめない?」
「やめません」
久遠寺くん相手に回りくどい言い訳や理論は通用しない。
それが解っていたから、さっくりざっくりとストレートに腹を明かしてみたのだが、これまた予想通りさっくりざっくり却下された。
「やっぱり、会社の事業が大事なの?」
「いいえ」
「じゃあなんで」
「この間、言いましたよね?」
目元を細めて、あくまでフェミニストな笑顔を見せる彼に、息がつまる。
「“好きになれそうだ”って」
適度に開いていた距離が、一歩、また一歩と近づくのが解った。
屋上は太陽にいくら近くても吹く風と、ほのかに薫る秋の匂いで肌寒い。
そんな季節によく似合う、鈴のような声も紅葉のような髪も、涼しげな表情も。
「私は、あなたのことーー…」
――…好きですから
葉が落ちるような早さで、ゆっくりと、染み出るように響いた声は、今まで聞いた彼のどんな言葉より、甘美だった。
こんなに、“好き”が影響力のある言葉だったとは思ってもみなくて、ようやく回転し始めた頭が、その意味を捕らえる。
「では、私は教室に戻ります」