生徒会長様の、モテる法則
驚くべき事は、彼が私を“好き”だと言った事ではなくて、その想いを拒否する気も、切り捨てる気にもなれなかったことだ。
ガラにも無く、嬉しかった。
好かれている、そういう事実が。
私は久遠寺くんの事を、嫌いではない、むしろ、好きの部類に入ると思う。
「鈴夏ー」
――…どうしよう
「おい、反応せんと、キスすんど、イダッ」
「目の前に現れんな」
久遠寺くんが去った屋上から、今だ一歩も動けずにいた私の前に顔を覗かせたのは、今の季節に不釣り合いな灰色の雲色をした髪の毛。
最近気付いたのだが、この人、offの時は前髪を赤いゴムで結んでいる。
ほら、今日も。
だからその、無防備な額にデコピンをしてやったというわけだ。
「副会長と、婚約したん?」
「は?なんで」
「なんでって、あそこにおった」
フェンスに向かって体育座りをしていた私の横に、同じ様にして座り、ぐっと肩をあげ、扉の方を斜め上に指差す。
いつもの場所に居たらしい。
「モテモテやん」
「うっさいよ、ちゃかしにきたなら帰れ」
「ちゃかしにきたんやあらへん、恋にお悩みのうさぎちゃんを助けにきたナイトやで」
「おおお、キモイ」
ヘラヘラ笑いながら、妙な事を言うものだから鳥肌が立ってしまった。
ナイトって、だったら白タイツで登場してみろ!
颯爽と白馬で登場してみろ笑ってやるから!
「なんでそんな悩んどるん。鈴夏が好きなん、生徒会長やろ?」
「え?は?嘘待って、なんで決定事項なの?」
「嫌いなん?」
「いや、嫌いじゃないけど…」
「けど?」
「わかんない」
一瞬、強い風が流れる毛先と体温を少しだけ攫っていく。
ザワザワと揺れる中庭の花や木が、急かす様に音をたてた。
「だって、嬉しかったの。“好き”って言われて」
風の音にまぎれる様にポツリと小さく呟くと、右京は目を二・三回瞬いて私の顔をマジマジと見た。
「嬉しいに決まってるやん」
「え?そうなの?」
「誰かに“好き”言われるんやで、そりゃ嬉しいやろ」