生徒会長様の、モテる法則
9-3 階段
知る恋もあれば、散る恋もある。
それでも止まらないのは、浸食性中毒性抜群の、この病気特有の副作用だ。
一時限目をさぼってしまった。
帰ったら、ハルかあるいは彩賀さんに怒られる事必須だ。
階段を下り2年生の教室がある階――つまり3階に差し掛かった所で、聞き覚えのある声が聞こえて足が止まる。
「だから、お前は何度言ったらわかるんだよ」
雑踏の中でも通る声は、彼のせいか私のせいか、それは解らない。
それでもその持ち主がそこに居るのは解ったし、その瞬間、胸が締め付けられるような感覚に陥ったのも解った。
――…私って、なんて単純…
ちょっとは単純な方だと思っていたが。
相当らしい。
呆れたような、それでも優しい音色、何となく2階への階段に足をかけずに声のする廊下を覗くとやはり要冬真が立っている。
ソワソワと彼を振り返りながら歩く下級生達。
すっかり忘れていたが、ヤツは人気者だった。
「トーマには関係ないじゃん、好きにさせてよ!」
「あのなぁ、そんなひょいひょい付いて行く事が間違ってるだろ。そう言う事してるから愛想つかされるんだよ」
「うるさいうるさい!あたしの勝手だもん!しらないもん!」
何やら言い合っているようだが、キンキンと甲高い相手の声はどう考えても海ちゃんだった。
あんな口答え出来る人、私と彼女ぐらいだし。
「先輩」
私のすぐ横で、金色の髪が揺れた。
「あれ、また会ったねユキ君、あれどうしたの?」
「なんか悠が他校の男子にアドレスを聞かれて今度遊びに行くとか。会長が全力で止めてます」
「へぇ…」
私は、頭の中でユキ君の言葉をゆっくりリピートして、3回目でようやく我に返った。
すっかり忘れてた。
背の高い黒い頭と、栗毛色の長い髪、互いに睨み合ってはいるが彼の視線は心無しか優しい。
――…海ちゃんのこと、好きだったんだっけ
「先輩?」
ユキ君が私の様子が変な事に気付いたのか、こちらを覗き込んだのが解った。
「次の授業あるから帰るね」