生徒会長様の、モテる法則
笑って手を振ると、彼は小さく礼をする。
その姿に感心しながらも、私は足早に階段を降りた。
どんどん遠のく二人の言い合いと、煩い足音、それに合わせて鳴り続ける心臓の音。
なんて大事な事を、忘れていたんだろうか。
別に、あの人への気持ちに自分が気付いたからと言って、それを打ち明ける気もないし、あの人が自分の事をどう思っているかなんてどうでも良かった。
少し気にかけてくれる、友達の一人としてでもいい、笑顔を向けてくれるならそれでいいなんて、思っていた。
――…嘘つき
「私の嘘つき」
全然だめじゃないか。
右京は、どんどん欲張りになるって言ってたけど、私はもう、充分欲張りになっていた。
現にショックを受けている。
こんなにも。
目の当たりにしてしまえば、こんなにも脆い体なのに。
なんで健気に“友達でいい”なんて思ったんだろう。
変なの。
「鈴」
階段の踊り場で立ち止まったままだった私を2階から覗いたのは、非常に懐かしい顔だった。
「げっ」
休み時間も終わりに近いためか、もう周りを行き来する者はいない。
「なんだいその顔、僕はこの学校だろ?会わないわけないじゃないか」
いや、そうなんだけど。
相変わらず取って付けたような笑顔は、表向き女性のような柔らかい表情だ。
目元のホクロを見ていると、升条の社長を思い出す。
ホクロ仲間め!
殺!!
「そういえば、聞いたよ。大人しく僕のモノになればいいものを、よりにもよって副会長と婚約したんだって?」
「は?なんで知ってんの!?」
「うっちゃんがメール寄越したから」
あいつ…!
なんなの誰の味方なの!!
「別にアンタには関係ないでしょーが」
階段15段分下に居る葵を出来るだけキツく睨みつける。
しかし当の本人は気にする様子も無く、階段を昇りだした。
「関係あるよ、だっててっきり会長さんかと思いきや、副会長でしょ?さっさと僕に服従しておけば良かったのに」