生徒会長様の、モテる法則

“好き”という言葉は、何度も言えば価値が下がると思っていた。
そんなことはない、何度だって、同じだけの価値があるのだ。
だって、凄く嬉しく思う自分がいるんだから。




「ねぇ、嬉しいのと、幸せは違うと思う?」





右京の言葉に、疑問符を付けて久遠寺くんを見上げた。




「そうですね、違うんじゃないんですか?」



久遠寺くんは、湯のみに手をかけ口元に運んだが、目だけはコチラを見たまま、喉元をコクリと音を鳴らす。




「きっと、20秒か、21秒の差ですけど」



たった1秒差。
私なら、間違えてしまいそうだ。



「そうだ」


丁度私が湯のみに口をつけるのとほぼ同時に、彼が湯のみから口を離して、ゆっくりテーブルに置いた。





「私は貴方と幸せになりたいと思ってますよ」



「ブハッ!」



「それから、貴方が冬真を好きだという事も知ってます」



「ガハッ、ちょっと、気管支、入っ、た」


なんで!
なんでそう言う事言うの?
喉が痛い!痛すぎて何も言えない!



「違うんですか?」



辛うじて水面が揺れる湯のみをテーブルに戻して、咳き込む私を可哀想に思ったのか、立ち上がった久遠寺くんの影はバニラの匂いと一緒に隣にやってきて、ゆっくり背中を撫でる。



「鈴夏さん」




目の前には、彼の顔。

違わない。
正解だ、最近知った出来立ての新事実。
私は声には出さずに、ゆっくり頷いた。
すると、久遠寺くんは小さな苦笑いを浮かべて困ったように眉を顰める。



「歯車は噛み合なければいけないのに、どうして食い違うんでしょうね」




沢山の歯車が歪に絡み合って人は進むのに、どうして。

歯車が噛み合う様に、本当はその道が初めから決まっていたのに、どうして。


やっと気付いた恋は、どうして滑車を壊そうとしているのだろうか。



好きだと気づく前から知っていた、要冬真が海ちゃんを見ていることくらい。



やっぱり。



“失恋”が、歯車に乗った“運命”なのだろうか。


滑車が、壊れることはない。



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