生徒会長様の、モテる法則
「なにがだ」
俺がフェンスに寄りかかると同時に飛んできた大きな声は、彼がハシゴを降りきるとほぼ同時に聞こえ、着地のせいか声色が少しひしゃげた。
こいつも、俺に説教をするつもりらしい。
「鈴夏んこと?」
なんで疑問形なんだよ。
「いいんじゃねーの?」
先程と同じように模範的な解答をしてやれば、秋斗とは違い楽しそうに口元を緩めた。
「らしくなか。生徒会長さんなら暴れだすと思っとったんに」
アホか。
「だから便乗してやろ思うてな、機会を窺ってん」
「あーそうかよ、残念だったな」
背中に青い風が吹いて、通り過ぎていった。
それが星南に当たり、それ以上近付くなと警告しているがそれは無意味なようだ。
「鈴夏は、きっと待っとるで」
星南の長い指先が絡まり、背中が揺れ、フェンスが軋む。
彼は下を見下ろしながら、溜め息をついてから俺を見上げた。
身長差は、きっと大してない。
「王子様がな、迎えにくんの」
女をとっかえひっかえだとか、良くない噂が飛び交う男とは思えないほど真っ直ぐな瞳に一瞬息を止めた。
「言ってみたらえぇやん。気持ちくらい」
変な男だ。
「これ」
星南は、ブレザーの内ポケットから摘んで取り出した紙切れを、俺の目の前に差し出した。
「24時間、ご指名待ってまーす」
満面の笑みを浮かべて、名刺を差し出すホステスのように媚びた声。
受け取るのも億劫だ。
そんな俺の心を読み取ったのか、人の胸ポケットに無理やり紙を突っ込んでヤツは背を向ける。
「俺なー!鈴夏には借りがあんねん」
ドアノブに手をかけ、星南は思い出したように大声をあげた。
仕方なく振り返ると、前髪を留めた赤いゴムがチロリと動く。
「幸せになってほしいと思うんよ」
幸せになってほしい。
俺だってそう思う。
だからこそ今彼女を困らせたくはない。
―――…せきとめるなんて意図もたやすい
欲しいものくらい、我慢してやるよ。