生徒会長様の、モテる法則
地面にひれ伏した状態で顔を上げると、葵の緩く巻かれたパーマが風で揺れるのが分かった。
「だから、トリークオアトリート?」
「なんでだ!」
彼の表情は、どちらかと言うと「聞こえなかったの?もう一回いってあげよう」と言う感じで、私をからかおういうよりは真面目に何かを要求しているそれだ。
ていうか…!
一昨年までは『なんかよこせ』だったのに『なんかよこさないと殺すぞ』に進化してる!!
こえー!
どうしよう殺される!
「トリークオアトリートかぁ…確かにそっちの方が面白いわ」
「こら右京!納得すんな!まず季節が違う事に気付け!」
地面に付いた体がヒンヤリと冷えていくのが分かった。
ここには味方がいなかったのだ。
「チョコレートくれないと、イタズラしちゃうぞ?」
うきょおおぉ!
面白がって参加すんな!
何とか体を起こすも、未だ掴まれた腕が解放される事はない。
ジリジリと近寄ってくる変態からなるべく離れようと後退りするも背中を押したフェンスに道を塞がれ、逃げ場を失う。
なんでバレンタインに殺されなきゃいけないわけ!
しかも屋上だし寒いから誰も来ないし歩く18禁だし!
これは力で行使するしかないか?
大変気が進まないが股間とか蹴っとくか?
どうしようどうしよう!
事態は一刻を争うわけで…。
やるしかない!
私が意を決して手に力を籠めると、カサリと聞き慣れない音が鳴った。
腕を掴まれていない方の、辛うじて自由な私の手の中にはビニール袋が握られている。
こ…これは…!!
暗がりの深海に一筋の光が射す。
「ここここ、これ!チョコレートあげるから!」
死に物狂いで上げた声と目の前に掲げた聖水もといチョコレートは、悪魔二人の動きを止めるには充分だった。
しばらくそのビニール袋を眺めていた葵は、つまらなそうに掴んだ腕を緩めてため息をつく。
「なーんだ、絶対何も持ってないと思ったのに」