生徒会長様の、モテる法則
sp-6 食べさせて
「アナタは本当によく足を捻りますね、足首弱いんじゃないですか?」
「す…すみません」
「大体突き落とした相手を追いかけること自体が間違いでしょう」
淡々と私を諭しながら歩く久遠寺くんと周囲の好奇な目。
こういう状況下で振り返られるのには慣れていない。
「相手の顔や特徴を覚えて、複数人で犯人を探すのが定石ですよ」
「すいません…でもあの…」
「春から貰ったモノがあったとしたって、もう少し後先考えて行動…なんです?」
「いや、自分で歩けるんで…下ろして…」
「却下です」
お姫様抱っこはやめてぇぇぇ!恥ずかしすぎる!
あの後誤って両手を離した私は死を覚悟し堅く目を瞑った。
しかし体が強い衝撃を受けるわけでもなく気を失うでもなく、感じたのは鼻を擽るバニラの懐かしい香り。
背中と太ももに暖かい人の温もりを感じる。
『危なっかしいですねアナタって人はどうしてあんな所から飛び出して来たんです』
目の前に久遠寺くんの呆れ顔が見えた。
抱きかかえられている状況に多少恥じらいながらも事情を事細かに説明すると、いよいよ彼の溜め息は長く細くなる。
『とりあえず保健室行きますよ』
で、今。
保健室くらい歩いていかせてくれ。
何を言っても聞いてくれない彼を見ながら、やっぱり恥ずかしいと口ごもってみるが聞く耳持たず。
黙って見詰めて、目で訴えかけてみるが全く通用しない。
眼鏡にぶつかりそうな長い睫毛は、彼がきれいな証拠だ。
要冬真に負けじとモテる久遠寺くんも、今日は大変な1日を過ごしているんじゃなかろうか。
「ねぇ」
「なんです?」
「今日、大変じゃない?」
抽象的な私の言葉であっても彼はすぐ理解したようで、一瞬考える素振りを見せてから口を開いた。
「まぁ、断るわけにもいきませんから。用意してくださったモノは皆心が籠もっていますし」
保健室の扉の前に立った久遠寺くんは通りすがりの男子生徒に声を掛け、扉を開けてもらい中へ足を運んだ。