生徒会長様の、モテる法則
遠くで冷蔵庫を開ける音や、氷が割れる音、テキパキと作業をこなす様子が見なくても分かる。
手持ち無沙汰に辺りを見回すと足元に布団を見つけ控え目に体へ掛けてやった。
遠くで聞こえる微かな音と寝たきりの自分は正に、家で寝込む病人。
思ったより腫れているらしい右足も、今は冷たくて感覚はない。
快適な空間。
普通に寝てしまいそうだ。
なんか久遠寺くんって…。
「…お母さんみたい」
「せめてお父さんと言ってください」
「うわ!ビックリした」
何となく呟いた先には、すでに部屋の奥から帰ってきた彼が立っており、不服そうに眉をしかめるとベッド脇に背もたれのある木製の椅子を横付けてそこに腰を下ろした。
「冷湿布は数10分しか効果ないですからね」
丁寧に湿布をはがし、手にあったタオルが代わりに足首を冷やしていく。
「無理して出る授業ではないんですから、午後はゆっくりしなさい」
少し身動きが取りづらくなったがそれは仕方ない話だ。
なんともお母さんくさい久遠寺くんの言葉が額を優しくなでていく。
「うん」
気のない返事をしながらも、ユルユルと重くなる瞼を叩くように強くゆっくり瞬きをすると、目を開けたすぐ先で真っ直ぐ此方を見下ろす双眸とバッチリ視線が絡み合った。
「あ…あの…」
「なんです?」
「そんな近くから見られても…何にも面白い事は出来ないんですが…」
拒絶を示すように何度も瞬きをしてみるが、久遠寺くんは私から目を離す気はないようで緩い目元をさらに緩めて眼鏡の奥で優しげに笑う。
「いや、可愛いなぁと思って」
ちょっ…!
形の良い口元から、笑顔で爆弾を落としてきたよこの人!
不意打ちの言葉にみるみる顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
騙されちゃダメよ鈴夏!この人は爆弾魔なんだから話を逸らして話を!
どうやって話逸らすの?
話題がない!
私があたふたと話題替えを脳内で構想していると、運良く昼休み終了のチャイムが静まり返った保健室に流れ始めた。