生徒会長様の、モテる法則
sp-7 心のこもったもの
ん…?
久遠寺くんが口にした言葉はあまりにも予想外の想定外で、脳内に語りかけるように繰り返す。
食べさせてください?
「ホワット?」
「そのチョコレート、私に食べさせてください」
「ホワイ?」
「んー…、バレンタインだから」
「え!」
意味不明なんですけど!
「いやいや理由になってなくない?」
「だって冬真にはきちんとしたもの用意しているんでしょう?不公平だなって」
「…」
用意してない。
色んな事が多すぎてすっかり忘れていたが、私がチョコレートを渡すべきはあの生徒会長様だ。
無言で彼から目を逸らすと、何を察したのか私の頭を掴んで無理やり首を回される。
ゴリッと良い音がして、目の前には不思議そうに首を傾げる久遠寺くんの眼鏡に私が移りこんだ。
「もしかして用意していないんですか?」
「あー…用意してないというか便乗してないというかチョコレート会社の戦略に乗らなかったというか、そもそもバレンタインという行事なんて勝手に何者かが名付けた日であって、そんなもの知らないし」
「忘れてたんですね」
遠回りの言い訳をピシャリと遮って、久遠寺くんは呆れたように目を細めた。
なんか人間では無いモノを見る目なんですけど。
ひどい。
「まぁ…あなたらしいと言っちゃあなたらしいですが…どうするんですか?」
「え?」
「貴方以外の女性が冬真にモノを差し上げているのに、貴方は差し上げなくてもいいのですか?」
その為のハルから支給されたチョコレートです!
「あぁ、そういう事でしたか。で、差し上げるんですか?それ」
私の持つビニール袋の中身の経緯を説明すると、久遠寺くんは面白いものを見つけたというような非常に楽しそうな笑みでこちらを見下ろす。
目をそらせないように、頭を捕まえたまま。
ハルから貰ったモノを、ヤツに渡す事は良いことだとは思わない。
ただ14日に何も渡せないのは悔しい。
忘れていたと、言いたくない。
それが、正直な気持ちだ。