生徒会長様の、モテる法則
「きゃぁぁ!」
和やかだった朝の登校風景に、突如水を差すような甲高い悲鳴が響き渡った。
明らかにその声が原因で飛び立ったであろう雀を数匹横目で見送って、俄かにざわめき出した周囲に私は思わず立ち止まった。
親父からの情報では、この私立梶峪学園【かじたに-がくえん】は由緒正しき金持ち学校だ。
朝から下品な叫び声を上げるなんて余程の事があったに違いない。
例えば、私の“親父しね”オーラが学園中に充満したとか。
「…」
ないない。
例えば、この学園に似合わぬゴキブリか出現したとか。
「…」
有り得る。
それならば颯爽と私が登場して倒してしまえば早い話だ。
さらに、女子を悪から守った勇敢な転校生勇者として一日目から高評価をゲット出来る。
良い感じだ。
そうだ、そうして女の子を守るボディーガード的な?なんかもう正義の味方ラーメン仮面みたいな、そんなポジショニングなら結構行けるかもしれない。
そうとなれば、早速。
私はラーメン仮面になるべく、未だに騒ぎ立てる背後の気配を捉えて、的確にそちらへ振り返った。
「要様よ!」
「…あれ?」
振り返った瞬間聞こえたのは沢山の悲鳴と歓声。
ゴキブリの代わりに、私の前に立ちはだかったのは男物のブレザーだった。
恐る恐るネクタイを追えば、その先にある小さな顔が目に入る。
女の子のような透明な肌に、艶のある漆黒の髪。
それと揃いの黒い瞳には意志の強そうな光が差し込んでいた。
背丈も申し分ない。
「なんだ、お前は」
声色さえも甘く感じる、男らしいアルトのそれは、あまりにも艶やかだ。
これで口調が丁寧だったら、完璧な王子様である。
私は、そんな彼の長い睫毛に見とれて暫し硬直した。
「俺様に、惚れたか?」
鼻で笑うような、すかした発言に思わず思考は停止しマジマジと王子を見上げると、彼は呆れたようにそっぽを向いた。
「悪いが、お前のような中の中な顔に興味はねーな」
奴の発言によって、私の中で作り上げられた王子像が脆くも崩れ去るのである。