生徒会長様の、モテる法則
「さぁ、どうぞ」
久遠寺くんは、いきなり私に向き直って座ってみせた。
え、なにこの感じ。
私と久遠寺くんの間を、少し冷たい風がすり抜けていく。
ニコニコと笑顔を飛ばしてくる彼は正直怖い。
私が意を決してジュリエットの台詞を口にすると、指を一本私の口元に置いた。
「“愛してる”って、言ってごらん」
子供をあやすような物言いに、体中の血が勢い良く回りだす。
要冬真のワガママな色気ではなく大人の怪しい色気。
目が回ってきた…。
私が何も言えずにいると、久遠寺くんは小さめな呼吸をおいてもう一度。
「“私の事をどう思ってるんだい?ジュリエット”」
思わず零れ落ちる言葉。
有無を言わせない彼の柔らかい声が私の体中を駆け巡り、指先を痺れさせた。
「愛して、います…」
あまりの気恥ずかしさに目も合わせられず、でも彼を見てしまえばきっと…死んでしまう。
私の口から零れた言葉は、自分でも驚くほど濡れていた。
「単純ですね」
「…、は?」
パチンと糸が切れるような久遠寺くんの声に驚いて顔をあげると、いつも通り嘘臭い笑顔の彼がこちらを見下ろしていた。
なんか、騙された気分!
あんな感じで攻められたら嫌でも声に熱籠もるわ!恥ずかしい!
「素直に騙されてみてはどうですか?単純なんだから。真剣に取り組めば自然とそうなるはずです。――…ねぇ、吉川さん?」
「え!?」
鉄仮面な笑顔がクルリと屋上の扉に向けられた。
吉川さんって…、脚本書いた吉川さん?
ていうかいつから?
私が久遠寺くんに翻弄されて色気に負けた所まで全部?
「今の演技…素敵です」
長い髪、綺麗に切りそろえられた前髪、丸めの眼鏡。
吉川朝子、今回の演劇の脚本を書いた張本人である。
「それはそれは。有名脚本家の娘さんに言っていただけると自信もつきますよ」
「脚本家!?」
「脚本家の朝川菊花の娘さんですよ」