生徒会長様の、モテる法則
なんか、彩賀さんってやっぱり怖いよな。
普段はお花のような変人なのに…。
目が光ってる。
撫子さん、大丈夫かな。
袖から舞台中心に目を向けると、幕こそは降りているが中心にはあらゆる色の花で彩られた棺が一つ。
まるで白雪姫のようだが、この物語は悲劇。
気を、引き締めていかないと。
私は、両頬を数回叩いた。
何だかピントが合わないのだ。
急に目が悪くなったわけでもないのに、視界は二つにぶれている。
思わず眉を潜めて、視点を棺だけに集中させた。
二つだった棺がゆっくりと一つになる。
――…おお、少し治ったな。
とりあえず、棺で横にならないと。
話は終わらない。
「おい、大丈夫か」
歩き出そうした私を呼び止める声は、少し遠くから聞こえた。
遠くから聞こえたのに、私に対しての言葉だと分かった自分が凄いと思ったが、後ろを見上げると声の主が真後ろに立って此方を見下ろしていたので少し納得。
「なにが?」
「お前焦点あってねーぞ」
屈み込んで私の様子を伺う要冬真の綺麗な睫毛が、少しだけ揺れた。
「大丈夫だし、元からだから。じゃあね」
予感はしていた。
途中途中感じる寒気と節々の痛みは、風邪特有の症状だ。
しかし、最後のシーンをこなせない程辛いわけではない。
私は、酸素を取り戻す為に伸びをした。
伸ばした両手が頭の上にあがる前に、右肩が少しだけ重いのに気が付いて首を捻る。
恐る恐る右手を上に上げると、ミシッという音と共に肩口あたりが熱を帯びていることがわかり、私は青ざめた。
タックルしすぎて右肩上がらん!!!
いやいや、頑張れ私!
ナイフを胸に刺す一瞬、ほんの一瞬天辺に手を上げるだけだ。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
呪文を唱えるように呟きながら棺に向かい、花を踏まないように横になる。
ゆっくり目を瞑り、幕が開けるのを待った。