生徒会長様の、モテる法則
3-999 特別編・保健室にて
特別編
※三人称です
「なんだ、すっかり寝ちまって起きねぇな」
冬真は、ベッドの上で静かに寝息を立てる鈴夏を上から覗き込んだ。
向かいで、春貴が心配そうに彼女を見ていたが徐にマジックペンを取り出して、額に“肉”と書いている。
「熱はー?」
「39度ですって。私がキスしたら風邪移ると思います?」
「彩賀さん。やめましょう」
明らかに個人的欲から出た発言を、秋斗は軽く諌めてからさらに続けた。
「とにかく、医者にも診てもらいましたから安心ですけど。学校に泊めるわけにはいきませんね」
「俺が家まで送り届ける」
冬真は小さめのパイプイスから腰を上げ、意識のない彼女の手を引っ張り上げた。
春貴がそれを手伝うように、少し浮き上がった背中を押してやると、彼女が少し身じろぐ。
「…、んー…」
「リン?おうち帰るってー冬真が送ってくれるってさー。おんぶね、おんぶ」
「…。ん。」
本当に、演劇が終わるまで極限状態だった事が解る。
普段なら嫌がりそうな冬真の背中に大人しく体をもたげた。
具合の悪い証拠だ。
「春、こいつの荷物持ってきてくれるか」
「はーい」
鈴夏をおぶったまま軽々と立ち上がった冬真が、春貴に声をかけて保健室の扉の前にたつと、秋斗が彼の背を呼び止めた。
「彼女の家、わかりますか?」
「わかんねぇけど、調べれば解るだろ」
「これ」
秋斗は、ポケットから小さな紙を取り出して冬真の目の前に差し出す。
彼が不思議そうにそれを受け取ると、秋斗らしい細めの綺麗な字で書かれていたのは都内の見知らぬ住所。
「…なんでお前知ってんだ?」
「お友達ですから」
口元だけで秋斗は笑い、冬真の背中でまた眠り始めた鈴夏の頭を撫でた。
「あと、彼女暗い所苦手なんです。ベッドに寝かしても電気は消さない方が、いいかもしれません」
彼の余計なアドバイスに冬真は眉を潜めたが、一つ礼を落とすと保健室を後にした。