生徒会長様の、モテる法則
4-2 執事
「とうまー元気!?」
広い廊下の突き当たりにある白い扉をハルが勢いよく開けた。
風邪で休んでいる人間にかける言葉ではないが、私は当の病人を見つける前に部屋の異常な広さに驚き声を失う。
私の部屋の三倍以上はあるスペースに、白くシミのない大きなクローゼット。
床は、そのままでも眠れそうな柔らかいカーペットでどう考えても我が家の布団より寝心地よさそう。
切り取って帰ろうかな。
ハサミがない。
テレビや机、パソコンは指紋一つ付いていない新品同様の最新式だし、ソファは私の家のベッドサイズで小さなテーブル付きだ。
金持ちって、怖い。
みんなが当たり前のように入って行く中私は、恐る恐る足を踏み入れた。
鼻を掠める甘い奴の香水の匂いを、脳はすっかり覚えてしまったようだ。
「なんだお前ら。揃いも揃って気持ち悪い」
「ケーキ食べに来た!」
あれ、メインそっち?
海ちゃんは、久遠寺くんが手に持っていた袋を取り上げて神に捧げるように天井高く持ち上げた。
それを見た要冬真は、仕方ないと言うように笑ってみせてから、内線らしき受話器を耳に当て紅茶やらフォークを注文している。
私はそれを見て、思わず唖然とした。
まるでホテルのようなやり取りにではない。
奴の笑顔に、だ。
あのくすぐったいような笑い方、目元を細めて愛おしいモノを見るような表情は、正に“ロミオとジュリエット”の演技の最中見せた、笑顔だった。
“ロミオ”が見せた“ジュリエット”へのそれは、間違いなく要冬真が海ちゃんに向けたもの。
――…大事に思ってんのかな
「鈴夏さん、どうしたんですか浮かない顔をして」
「へ?」
抜けるように聞こえた久遠寺くんの声で、私は我に返り顔をあげる。
彼は、少し心配げにこちらを覗きこんでいた。
私が浮かない顔?
なんで?
「流石に、風邪を移してしまって悪いと思ったんですか?」