生徒会長様の、モテる法則
「しょうじょう?」
知らない名前だ。当たり前だけど。
「升条ビジネスという、日本でも有数な会社の一つです」
そもそも、社会の財政や経営などから興味も環境もかけ離れている為言われた所で全くピンともこない。
“しょうじょう”という名字は聞いたことある気がするが、いつどこで耳にしたのかも解らなかった。
私は悩みながらも何となく視線を動かすと、何故か呆れた目で久遠寺くんが此方をみている。
「…、なに?」
嫌な予感はするが、とりあえず反応してみた。
「…。いえ、世間知らずだなと思って」
「じゃかぁしい!」
予感的中!!
しかもまともに反論出来ない自分が腹立つ!
何かネタはないかと、彼をジロジロ眺めてみたが見つかる要素もない。
ハルや要冬真は、割と理不尽な発言が多いので即座に言い返せるのだが、ユキ君と久遠寺くんの場合普段は危害を加えてこないくせに尤もらしい発言で人の心を傷付けてくる。
その為、頭の回転が遅い私には反論する事さえままならないのだ。
しばらく私を見ていた久遠寺くんが突然、何かに気付いたように目線を落とした。
「クリーム」
「へ?」
「ここ、クリームついてますよ」
彼は自分の唇のやや右をトントンと、軽く叩いてみせた。
視線は、そのクリームが付いているであろう口元。
私は恥ずかしくなり慌てて口元を拭うが、久遠寺くんの視線は離れる気配がない。
「もうちょっと唇側です」
丁寧に指示まで添えて。
しばらく私とクリームの戦いが続いたが、ついに見かねた久遠寺くんはため息混じりに私の顎に手を添えた。
取ってくれるらしい。
反対の手が唇の真横を掠める瞬間、私と彼の短い隙間を何かが――…いや、銀色の硬いものが通り過ぎ、ガスッと奥で滲んだような音を立てる。
恐る恐る銀色の道筋を辿ると、ケーキ用の小さめのフォークがダーツボードの中心に突き刺さっていた。
「うわ、とうますげー!」
ハルの呑気な歓声を添えて。