生徒会長様の、モテる法則
叫んでいる場合じゃない。
二階なのだから体制を立て直せば“頭パーン”的な事態は免れるのだ。
良く考えれば木登りをしていて落ちたことは数え切れないほどあって、恐らく今までの落下点の中で一番低い場所だ。
体制を立て直そうと、勢い良く頭を上げると育ちの良さそうな芝生が見える。
設計者グッジョブ!!
コンクリートじゃなくてよかった!
しかし、自分の着地地点になるであろう場所に目を向けると、コンクリートより厄介な物が視界に入った。
「え、ちょっと君どいて!」
私の叫び声に、芝生で寝転び本を読む男が、ゆっくりとこちらを見上げる。
バッチリと目が合ったのにも関わらず男は、動じることもなく手に持った本を芝生に置いただけだった。
「え!ああぁぁあ!」
どけよ!本だけ避けたって意味ねーんだよお前がどけ!
私の体は、着地体制に入るわけにも行かずそのまま落下する。
鈍くて嫌な音が体中を振動させた。
思わず瞑ってしまった目を開くと、質の良いカーディガンが視界いっぱいに広がっている。
私は男の真上に落ちたらしい。
耳元にはゆったりとした心臓の鼓動。
焦っていた私と正反対の落ち着きように恥ずかしくなり、起きあがろうと両手を男の体の外につく。
しかし起きあがる前に、両脇から伸びた男の両手が私の背中を叩くように回された。
「ぁだ!」
その衝撃で立ち上がろうと芝生に置いていた両手が滑り、私の体は男の上にまたもや落ちた。
「びっくりしましたよ、天使かと」
耳元で囁かれた声は鈴の音のように爽やかで、甘いバニラの香りが鼻をくすぐる。
一瞬その色気に気を失いそうになったが、男の可笑しな発言に目が点になった。
「は?天使?」
「秋斗!そいつ捕まえておけ!」
「げ!」
上から降ってきたのは、あのゴキブリ野郎の声。振り返って上を見上げると窓からこちらを見下ろしている。
「というわけですから、少し大人しくしていてくださいね」
チュ、と、頬から耳に聞き慣れぬ音が聞こえてそれが何か理解した瞬間、私は意識を失った。