生徒会長様の、モテる法則
二人だけの空間にヒビをいれるように、ドアノブを回す音が聞こえ私とユキ君は同時に顔をあげた。
「お前もパソコンの打ち込みぐらい出来るようになれ」
入ってくるなりダメ出しとは…、抜け目の無い奴だ。
要冬真は静かに扉を閉めて、右手に持っていた三センチほどの厚みのある冊子を、生徒会長様専用机に投げるように置く。
その鈍い音に、私はヤツから視線を本へ移した。
「なにそれ」
「次の文化祭の企画案概要だ」
「え、次の行事早くない?」
「今年は俺様の意向で早めた。7月の中旬を予定している」
お前の一言で行事の日程早まるんかい!
どんだけだよ。
何が書かれているかは到底確かめる気にもならないが、あの厚さだ。相当気難しい事が書いてあるに違いない。
会長様専用椅子に、やや投げやりに腰を落としたヤツは、机に置いたばかりのその本を手に取り真剣に読み始めた。
しかもご丁寧に、一ページ目から。
私はまたぶり返した沈黙に戸惑いながらも、先程要冬真に言われたダメ出しを思い出しユキ君の肩を叩く。
また邪魔をする気か、というオーラを放つ彼が仕方なさそうに顔を上げた。
「私にも、文章打たせて」
ニコリと笑ってみせると、ユキ君は黙ってパソコンを持って私の前に移動させた。
最新型の、ノートパソコン。
実は実家にパソコンはなく、マジマジ見るのは初めてだ。
四角い駒が並ぶ規則正しい配列を端から端まで、上から下までなぞるように視線で追いかけた。
「…、“あ”はどこ?」
「先輩…もしかしてパソコン触ったことないんですか?」
ユキ君は私の質問に答えず、ゆっくりとした口調で突っ込んだ。
「あははは、はは」
私の乾いた笑いが、静かな生徒会室に響く。
人口増えど活気付かない室内の空気は、笑い声に負けず劣らず乾いていた。
「…。パソコン、返すわ」
「懸命な判断だと思います。先輩にしては」