溺れる唇にキスを





「汐音、俺のこと見て」


グッと無理やりあげられた顔に、
逆らおうと横に顔を逸らすと
切なげな颯の顔が目に入る。


アーモンド形の瞳が、
寂しげに伏せられていく様。


ただそれだけなのに、ひどく
胸が痛くなる。


「ごめん…っ」


そう言って、颯の傍から
走り去ることしか
あたしにはできなかった。


どうしたらよかった…?


安易な気持ちで、
颯を傷付けたくないの。


それなのに、
颯の切なそうな顔が
頭から離れない。


「好き」なんて感情も、
なにもない。


それなのに、
無性に傍にいたくなる。


拓也がいるのに…。



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