溺れる唇にキスを




「じゃあ、颯の家に出発しまーす」


なんて気を使って
明るく言ってくれる
要くんに、縦に首を
振ることしかできなくて。


颯、ズルイのは颯だよ。


始めからあたしのこと
知ってたのに。


「バカ颯…」


本当に馬鹿だよ、こんなあたし
ほったらかしにしててよかったのに。

拓也に別れ話を出されるのに、
怯えてるバカなあたしなんて
知らないふりしてよかったのに。


自転車の前に乗った要くんの
ブレザーに落ちないように
しがみついて。

泣くしかできなかった。


「先輩、自分の気持ち…。
気付いてますか?
颯に対する…」


わかってる、どうしようもないくらい。
颯がいないと、ダメなんだって。


颯の顔が見えないだけで、
寂しいんだって。


「…うん、今わかった」

「俺、なんか颯が先輩を
好きな理由分かった気がします」


そう言って、頭を掻いた要くんに
笑って、なにそれって言って。


―――はやく、颯に会いたいよ。


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