溺れる唇にキスを




部屋の前まで着いて、
インターフォンを押そうとして。


でも緊張のあまり、
何度も押そうとして
止めての繰り返し。


頑張れ、あたし!

颯に会いに来たんでしょう…?


はあっと息を吐きだして、
ボタンに手を伸ばすと
スゥッと吸いつくように
ピーンポーンという音が聞こえて。



出なかったら、
どうしたらいいの?


黙って帰るなんて…できない。



「………はい?」


っ…!颯の声……。


掠れて、少し鼻声の颯の声に
一瞬固まってしまう。


「……はい?誰……?」

「あ、あたし!颯、開けて」

「え……?誰?分かんない」


あ、あたし名前言ってない。


そう気がついたのは、
ドアが開いていて。


「え、汐音……?なんで」

「っ…熱、大丈夫なの?
心配で…来ちゃったじゃん!」



灰色のスウェット姿で、
頬を紅く染めた颯に
やっぱり熱があるんだって
そう思うのに。


< 27 / 28 >

この作品をシェア

pagetop