それでもわたしは生きている

一瞬の出来事だった。



シンナーを吸ってる割りには反応のいい隣りの男が、ドアを開け、飛ぼうとした私の腕を掴み、引っ張り込み、ドアを閉めた。


私は後部座席の真ん中へおいやられた。


興奮したのか、私を引っ張り込んだ太った男が襲いかかって来た。


もう…何がなんだか…


暴れたって逃げられないことが分かった人間は、半分諦めモードになる。


運転手が言った。

「まだ止めとけ!」



まだ…ってことは、後で始まるってことね…


静かに車は走り続ける。



ふと、信号待ちで派出所が見えた。


あ…、おまわり…
おまわり、助けてよ…
おまわりぃ…この車止めてよ…
頼むよ…おまわり…


私の声が聞こえるはずもない。

この車を止める理由もない。




静かに車は走り続ける。

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