それでもわたしは生きている
取り引き
助かるわけがない…
この脱出劇を考えたのは…
この時じゃない。
あの、車から飛び降りるのに失敗した瞬間から、頭の中が真っ白になって思考回路が停止していた。
派出所の前を通っても…
今まさに隣りの車に目撃者がいるこの時も…
心の中で誰にも聞こえない
『助けて』
を叫ぶことしか出来なかった…
だから…この絶好のチャンスだって、チャンスだなんて気付けなかった…
ただ呆然と、次にやってくる牙をむいた黒鬼を待っているだけだった。
隣りに止まっている車の運転席に、40代位の男が座っているのが見える。
不審に思わない?
「何してんやコイツら」
って思わない?
思ったって、何も出来ないよね。
カッコイイ正義のヒーローの真似ごとなんか出来ないよね。
自分だって、関わったら何されるか分からないし、恐いよね。
私だって…
きっと…同じだと思う…
運転手が運転席に乗り込んで来た。
そのまま、100メートル程車を進めて停車した。
???
「こっち座り!」
助手席へと手招きしている。
私は言われるがまま、車内を移動した。