悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
鍵盤に身体ごと力を持っていって、指を叩きつける。
強引に、初期のモチーフを、何度も何度も作曲家の指示通り繰り返しているうちに、不気味なはずの不協和音がポップで可愛いものに思えてくるから不思議。

最後の方なんて、クラシックって言うよりジャズのセンスが問われているんじゃないかと思うもの。

そのくらい、自由に指を動かす。
鍵盤に叩きつけ、時に優しく。

そうして、低音で始まったはずの音楽はいつの間にか高い音で終わりを告げる。
別れを惜しむように、そっと。

その余韻に浸った瞬間。


パチパチパチ、と。
意外な方向から拍手が聞こえた。

……え?

私は思わず顔をあげる。

開いた窓枠に腰掛けていたのは、茶色い髪をした男性だった。
青年、というより少年に近い。
逆光で、その顔は見えないのに何故か紅い口元は笑っている気がした。

とん、と。
手をつくと何食わぬ顔で教室に入ってくる。

黒のジーンズに、同じく黒のパーカー。
外履きのスニーカーだが、悪びれた風は無い。

おや、と。
私が警戒心を抱く前に、昔からの知り合いにでも笑いかけるかのように自然な微笑が投げかけられる。

天使の微笑、と称したいような甘い笑顔についうっとりと見入ってしまう。

……知り合いでしたっけ?




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