悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
だって、大人な二人の唇付けより、そっちの方がよっぽど気になるじゃない?

さっきの、茶髪の子犬くんっ。

あの、無邪気な笑顔は天使のものだと言われたら信じてしまうわ。
少し訛っていたせいか、独特のアルトの声は柔らかく、耳に心地よかったし。

何よりも。
テレビ画面くらいでしか見たことがないようなイケメンだったんだもん。


……誰なのかしら。

彼が誰にしても、他の人の目に触れたら最後。
もう、私とは喋れない人気者になってしまうことは間違いない気がする。

ありていにいえば、「学園のアイドル」になっちゃいそうじゃない?

うん。
彼にぴったりの称号だわ、コレ。

一階に辿りついた頃には、私の頭の中はキスのことより、「学園のアイドル」くんのことでいっぱいになっていた。



「息、切らしてどうしたの?」

……

瞬間。
切らしていたはずの息さえ止まってしまった。

先ほどと寸分違わぬ微笑を携えて、下駄箱の近くの窓にもたれていた茶髪の天子様が私に声を掛けてきたんだもの。

思わず足を止めて、その、真っ直ぐに見つめてくる鳶色の瞳と対峙してしまう。

「ん?」

と、首を傾ける仕草は、主人の言葉を待ついたいけな子犬を髣髴とさせる、愛らしいものだった。




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