悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
私は何とか腕の中から抜け出して、距離を保つ。

ジュノ、否、潤はまるで小動物の観察でもするかのように、面白そうな瞳で私を眺めていた。
口許を彩るのは、柔らかな笑み。

それを見ているだけで、彼が悪魔であることなんて忘れてしまいそうになる。
ぎゅっと拳を握って自分を戒めた。

「平気な顔して、お父さんやお母さんまで騙すなんて、どういうつもり?」

「嫌だなぁ、キヨミちゃん。
俺は誰もだましてなんてないよ?
強いて言うなら、俺の記憶がキヨミちゃんにだけないってだけで。
それとも、思い出させてあげようか?」

私を覗き込むその瞳は、いとこを心配する優しい眼差しにしか見えなくて、私は思わず言葉を失う。

ずるい。

冗談めかして言ってる割に、その瞳に淋しさを閉じ込めるのは、卑怯だと思うの。

……私の記憶さえ操ればもう。

彼は、悪魔なんかじゃなくなる。

『従兄弟の潤くん』に、なってしまう。

そうして、……何の用で来ているのかは知らないけれど……いつか、誰にも気づかれずにひっそり魔界に帰っちゃうんだわ。

誰にも、不自然さなんて感じさせないままに。

私は手を伸ばして、潤の頭をくしゃりと撫でた。
だって、今にも捨てられそうな子犬にそっくりな顔してるんだもん。

「私はこのままでいいわ」

だから、そんな顔、しないで?

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