悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
「では、失礼します」

上機嫌な魔王は、今しがた手に入れた知識全てをひけらかしたいようだったが、それを聞いていたら日が暮れてしまう。
ニバスはゆっくり立ち上がった。

「ああ、リリーのお母様は大田志保と言う。
運命を変えられると困るから、接近はしないように」

「……かしこまりました」

もらった写真を見ながら、恭しく礼をする。
もっとも、その人物はまだ独身の16歳だという。

本当に、リリーはこの女から産まれると確定しているのだろうか?

ニバスの心に疑問が宿るのも無理は無い。
人の運命なんて100%確定しているわけではない。

大田志保は明日死ぬかもしれないし、今見えている運命の男とはまた、別の男と結婚する可能性だって十分にあった。

だからこそ。
決められた運命を自分が入ることで変えないように、細心の注意を払わねばならない。

でなければ、リリーとの再会を心待ちにしている魔王の、逆鱗に触れることになる。
魔王に嫌われたら、道化師長に戻らねばならぬ可能性だって十二分にあった。


重たい任務を背負ったニバスは恭しく礼をすると、魔王の部屋を後にした。


もっとも、その重たい表情とは裏腹に、心のうちには「今までだって大丈夫だから、今回だって問題はないだろう」なんていう楽観的な声が響いていた。
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