悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
「あら、意外」

志保さんはそう言うと、いつになく真剣な瞳で私を見た。

「一人好きになったら絶対に彼と貫かなきゃ、なんて肩肘張っている人もいるけど。
 私は気持ちなんて水物だと思うわ。
 だって、明日の気持ちなんて誰にも分からないじゃない。
 もっと良い人が現れるかもしれないし、彼は居なくなっちゃうかもしれないわ。
 下手したら、私が居なくなっちゃうのかもしれない。
 だから、今の気持ちを私は素直に信じるの。
 そして、出来るだけ真っ直ぐにそれを表現する。
 ただ、それだけよ。
 それが、一般人だろうが芸能人だろうが、変わらないわ。もっとも、氷川さんの家庭を壊そうなんていう願望も持ち合わせてはいないから……。
 そうね、私は二番目に好きな人が現れたら付き合って差し上げてもよろしくてよ、くらいには思っているわ」

思いがけず熱い言葉に、私は目を丸くする。

「……その、何かあったの?
 志保さん」

「あら。
 田沢先生とは幼馴染だって聞いていたからてっきり知っているのかと思っていたわ。
 ご存じなかったのね」

ふわり、と志保さんが笑う。

「彼氏に夢中だから、仕方が無いわね」

「え?」

首をかしげた私に、志保さんが囁いた。

「この前、田沢先生から告白されたの。
 もちろん、丁重にお断りしたわよ」

思いがけない言葉に、息を吸うのも忘れてしまいそうになった――。
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