悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
ピアノ。

物心が着いた頃には既に、ピアノを習っていた。
元々、人から言われたことに従うことを苦に思わない性格なのか、いわれたことをそのままに弾いて見るのが好きだった。

でも、高校2年生。
来年は受験を控えている私としては、これが最後のピアノの発表会になる。

短い曲が良い、と、先生に切り出したのは私。

――先生。
  小さい頃から私にピアノを教えてくれていた憧れの田沢先生は、なんと、この高校の音楽の教師でもあるのだ。

田沢弘明、33歳。

ありていに言えば、幼馴染のお兄ちゃん……、いや、私が3歳でピアノを習い始めたとき彼はもう音大生だったから、おじちゃんと言ったほうがいいのかもしれない。

けれど。

なかなかに、悪くないルックスをしていて。
何故か、未だに独身。

まぁ、それはともかく。
彼の軽い職権乱用で第二音楽室のグランドピアノを毎日1時間貸して貰えるのはすごく助かる。
家にあるのは、アップピアノなので、どうしても鍵盤の重さが違うのよね。
出来れば、本番に近いもので練習しておきたいじゃない?


その曲の時間はわずか3分にも満たない短いもの。


けれど。

『きよみちゃんって、ハチャトゥリアンの剣の舞、気に入ってたよね?』

『ええ、でも、あれはピアノよりもオケの方が断然いいと思うんですよね』

『ああ、それは先生も同感だ』

そういって、意味ありげな笑いを浮かべながら田沢先生が渡してくれた楽譜は、なかなかに難解なものだった。


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