小説:夢幻泡影
02
「優花。ねえ、優花ってば」
呼び起こす声。
繰り返して脳に伝わるその声は
次第に少女を目覚めさせた。
「ん……咲姉さん。どうしたの?」
咲姉さんと呼ばれた女性は
笑みを絶やさずに少女の頬をつねる。
「いててて」
「伊藤 優花は外出するため、指定時間に起こしてほしい。と言ったのは誰かしら?」
「ふひはへふ……ははひれふ……」
すみません、私です。
と言ったであろう少女、伊藤 優花は姉の手から逃れ、外出準備を始める。
「やれやれ。16にもなって起こしてほしいなんて言った次の日に寝坊なんてね」
「年齢関係ないじゃない」
と、すかさず返答する優花。
三年前、赤い石を拾ってから似たような輝く石を拾い続けてきた。
赤、緑、青、黄、金、銀、水、紅、藍、朱、薄緑、黄緑。
12種類の輝く石が優花の手元にある。
今回の外出も輝く石を探すための旅行である。
電車ですぐに到着しそうな距離までに見つかっておりながら、
発見情報は未だ入らない。
「変だよなあ……」
特に何かが起こったわけでもない。
しかし、優花は違和感を感じていた。
「魔法なんて2次元のお話。わかってるのに……」
石が語りかける夢を見た優花。
身体が勝手に行動して石にたどり着いたり。
石が勝手に動いたり。
ここ最近、優花は不思議な現象に悩まされていた。
夢であると信じたい。
しかし現実にそれは起こっている。
「少しずつ、何かが私を呼び寄せてるみたい……」
石を拾う度に不思議な現象は起こる。
優花は石が自分を呼び寄せているのではないかと考えていた。
しかしそう考えるも、そんな非現実的な事はありえないだろうという考えもある。
今は石を集めることが重要だった。
「わからないけど……感じる」
優花は進んでいく。
運命に流されるかのように、奥へ奥へ。
始まりを作る渦は、まだ小さいままで回り続けていた。